ファインミネラル蒐集家「亀田和人」インタビュー

0021.06.21

地球という作家が築く芸術、
ファインミネラルの果てしない魅力

2026年6月26()〜7月5()まで、MIN GALLERYでは「Formation(形成)」をテーマに5人の作家と2人のコレクターによる企画展を開催します。

作家たちが、あるいはコレクターたちが美を見出したのは、自然から形成されゆくものが発する溢れんばかりのパワー、そして意外性に満ちた表情。石や金属をモチーフに制作活動を続ける作家、土の表情や機敏を追い続けるフォトグラファーと共に今回ご紹介するのが、ファインミネラル(鉱物)蒐集家の亀田和人です。

これまで一部の限られた人々の趣味とされていたファインミネラルを「地球が創り出した天然のアート」と位置付け、独自の視点から眺める鉱物コレクター。さらに、それらを体系化して世に伝える行為は、新たな価値観を生むクリエイターであり翻訳者とも言い換えられるのではないでしょうか。世界が気付き始めたファインミネラルの魅力を探るべく、東京は青山、骨董通りの路地裏にある小さな専門店を訪ねました。


何万年もの制作時間を経て生まれるアート、鉱物

ギャラリーにて鉱物について説明してくれる亀田さん。大きなテーブルや壁際の棚に、大中小、色とりどりの鉱物が整然と並ぶ。キャンディのように愛らしいのによくよく眺めるうちに魅入られてしまう鉱物の不思議な世界。

ファインミネラル蒐集家の亀田和人さんが営む「AP Fine Mineral Art gallery」は、骨董通りの奥深く、細い道を入った場所にありました。小さな看板が掲げられた銀色の扉を開けて亀田さんが迎えてくれなかったら、そのまま住宅だと思って素通りしていたかもしれません。ところが一歩中に入ると、思わず息をのんでしまったのでした。

象牙色に統一された店内には、色とりどりの鉱物がずらり。大小さまざまで、よく見てみるとその饒舌な表情に目がくらみそうです。すべてが不可思議、奇天烈、そして圧倒的な美しさ。思わず唸る造形や色であり、これらがすべて天然石でなんの作為もなく地球が生み出したものだと聞くと、なんというクリエーションなのかと感動せずにはいられません。「石にこんなに種類があるなんて……」と思わず漏らした言葉を受けて、亀田さんがにっこりと微笑みます。

「宝石を見慣れた方でも、こうして天然の鉱物標本をご覧になると驚かれることが多いです。たとえばこのパライバトルマリンなんて、鮮やかなネオンブルーですしね。でも自然の姿そのものなのです」(亀田さん)


それ一つでは存在し得ない、ファインミネラル

ナミビアで採取されたフローライト&クォーツ。王座のような形のクォーツにはまったフローライトという、自然の産物とは思えない、地球による斬新な意匠。

 

この場所では、初めて鉱物の魅力に開眼する人が後を絶たないと亀田さんは言いますが、なるほど、それも無理はありません。これまで私が考えていた「石」は、河原や道端で見かける“石ころ”か、ジュエリーに使われる宝石、そのいずれかでした。亀田さんのコレクションはどちらにも当てはまりません。きらめく色や光を宿した鉱物は単体ではなく、ごつごつした岩の塊の中から顔をのぞかせていたり金属のような鈍色の石と接合していたりと、想像を上回るユニークさです。

「いわゆる宝石と呼ばれるものは、実は単体では生まれません。地底や岩の中にあるさまざまな成分が結晶となって形成されるものが鉱物なのですが、何もない無の状態から生まれはしないんです。何か別の鉱物と一緒になって成長していくことが多い。例えば“蛍石”の名で知られるフローライトは、形成過程においてクォーツ(水晶)やカルサイト(方解石)、パイライト(黄鉄鉱)などの鉱物と隣り合って成長する様子がよく見られます。鉱物の世界では、そういう結晶体同士の集合も含めて“景色”とみなし、愛でるんです」(亀田さん)

フローライトは一例で、トパーズやアクアマリン、ガーネット、ベリルなどの数多くの名を知られた石も、実はどれも隣り合って何らかの鉱物との共生が見られるのです。助け合って成長するさまはまるで人間を思わせ、亀田さんの話を聞いて一気に石の概念が崩れそうです。


はるかな時間を刻んだ地球の履歴書、それが鉱物

こちらもフローライト。同じ名を持つ鉱物種でも本当にさまざまな色や形があるのがまた、鉱物の面白さだと亀田さんは言う。

ジュエリー好きと鉱物愛好家には歴然とした違いがある……とようやく理解ができたものの、身につけるわけでもなく、圧倒的な存在感を抱いてただ佇むのみという鉱物標本。亀田さんがこの世界に魅了されたのは、どういう理由だったのでしょう。

「初めて鉱物に出合うお客様からよく受ける質問が、“この石は何に効果があるんですか?”とか“金運や恋愛運が良くなる石はどれですか?”とか。パワーストーンのブームがあったのでその影響かと思いますが、残念ながら私からはその答えは語れません。鉱物は、ただ鉱物です。邪気を鎮めたり運気を上げたりといった効能は、科学的にはありません。けれど、そんな力がなくても私にとっては絶大な美しさで癒やしてくれる存在。なぜ惹かれるのか、もはや自分でもよくわからないんです」(亀田さん)

宮崎で過ごした幼少期、小学校の門から校庭に続く道端に、理科教材としてさまざまな石の標本が並んでいたのが亀田さんにとっての原体験でした。半透明に光る黒曜石は、石と石をぶつけると欠片がぽろりと落ちるのが子供心に楽しくて、夢中でそれらを集めていたのだそう。ただ、そんな思い出があるものの、石が人生の中心に入り込んでくるのはずっと後のことだったといいます。


それは石で出来た赤い薔薇。ロードクロサイトに魅せられて

亀田さんが鉱物コレクションに夢中になったきっかけの一つが、薔薇色の石、ロードクロサイト。透明度も形状も色も何もかも異なるが、それでもこれらはすべて同じロードクロサイトだというのも不思議。右のオールドローズのような石で、こぶし小のサイズ。

長崎の大学に進学し、就職先は東京の大手証券会社。その後、広島の支店に転勤になるものの、次は広島で転職してファンド企業に勤め、リーマンショックで世界経済が落ち込む激動の時代を経てそのファンドは廃業の憂き目に遭います。退職後、顧客の相談に応えているうち、今度は保険代理店で働くようになり、多くの不動産の相談に対応する形で2015年には不動産業を起業した亀田さん。無我夢中で働き続け、そこに鉱物が入り込む余地はありませんでした。

それなのに再び鉱物の美に再会したのは、やはり運命なのかもしれません。30代前半になり、「そうだ、自分は鉱物が好きだった」と愛情が蘇ったのだそうです。

「仕事が軌道に乗って安定したことも大きかったかもしれません。時間が出来たんです。その頃、仕事でも東京に行く機会が増えましたが、その際にミネラルショーのようなイベントを見に行くようになりました。最初は見るだけだったんですけど、そのうちに金額を見て気づいたんです。僕でも買えるんだ、って」(亀田さん)

一つ買い、眺めているともう一つ欲しくなる。もっといいものに出会いたくなるし、探したくなる。最初は趣味だった亀田さんの鉱物購入は、次第に動かす金額が大きくなっていきました。それを良くも悪くも牽引することになったのがロードクロサイトという石。和名では「菱マンガン鉱」といい、「インカローズ」というロマンティックな呼び名もある赤い鉱物です。

「宝石としてルースに加工するには硬度が低いんですよ。要するに傷つきやすい。ダイヤモンドが硬度10で水晶が硬度7くらいですが、ロードクロサイトは3.5です。ただ、私は特に身につけたいわけではない。原石のままがいいんです。そのままで最高に美しいと思うから」と亀田さん。ロードクロサイトの赤い輝きは、ギャラリーの中でも特別な存在としてショーケースの中に飾られていました。


原石のままであることが価値であり、尊さ

今回の企画展「Formation」に出品される鉱物たち。上から、フローライト、トルマリン&クォーツ、トルマリン&クォーツ、ルベライト、スピネル。実物は手に取って眺めることも可能なのでぜひ会場で。

「私はよく、鉱物を指して“地球が創り出したアート”と呼びますが、多くの人々に「すごいアーティストがいて、その作品がたくさんある」と伝えたいんです。もちろんカットされて磨かれた宝石も素晴らしいと思います。ですが、地中から掘り出されたままの姿、人の手が加わらないのに結晶がこれほどユニークな形状や色をまとって存在していることはもう、奇跡としか言えません。スピリチュアルではなく人を飾るための宝飾品でもない、新たな存在価値として鉱物の魅力を伝えていきたいと思います」(亀田さん)

少しずつ集め始めた鉱物のコレクションは、次第に亀田さんの審美眼・選別基準を通して愛好家たちからも一目置かれるようになっていきました。SNSを通じてその魅了を発信していた亀田さんの元には、国内外から質問や売買の相談が寄せられるように。ついには世界各国で開催される著名な鉱物見本市にも参加するようになり、亀田さんの鉱物世界は次のフェーズへと突入します。

 


小さな石も大きな石も、すべてに自然の個性が宿っている

ペリドットやアメジストなど、知っている名前の鉱物標本も多いのにその姿形はお馴染みのジュエリーとはかなり異なる。結晶の形や特徴が最もよく見える向きを一つ一つ亀田さんが選び、アクリル製の台座の上にセットして陳列するのだという。

最初は2019年、オンラインショップを創設したのがスタートでした。黒背景に鉱物を置いて、最も美しく見える角度を計算して写真を撮りサイトに掲示する、そんな繰り返しで、自身のフィルターを通して選んだ「亀田コレクション」を世に届けるようになったのです。

「地球には現在、5000種類を超える鉱物が存在しています。まだ発見されていないものを含めるとその数はもっとあると言われています。日本では鉱物標本の価値というのはまだそこまで認識されていませんが海外ではかなり盛んで、私のミッションは日本の市場にきちんとしたルールを知らしめることかもしれません。鉱物標本のルールとは、石の名前と産地、どこで採取されたかが最低限の情報なんですが、さらに誰が持っていたかなどの経緯などもオーナーとしては持っておきたいデータです。何種類かの鉱物が混在するものが多いので、それぞれの性格についても記しておくべきでしょうね」(亀田さん)

「ちなみに……」と勇気を出して聞いてみました。「亀田コレクションのアドバンテージとは何なのでしょうか」と。考える間もなく即答でした。

「それぞれの鉱物種が持っている特徴を、トップクラスに兼ね備えているものを選びます。石の状態、結晶の色、透明感。金属鉱物ならその光沢や結晶面のつややかな輝きも。さまざまな特徴すべてを見て、これは良いものだと自信を持てるもののみを選んでおり、その上で共生する鉱物同士の組み合わせが景色として美しいかどうかを眺めるようにしています」(亀田さん)

いつしか、メディアや著名な実業家たちからも鉱物博士として絶大な信頼を得るようになった亀田さん。今回の企画展には、フローライトやトルマリン、アクアマリンといった鉱物標本を出展するとのことですが、文字通り、世界に一つだけの存在ばかりです。

「石を愛してくれる人の手に渡るのはうれしい反面、売ってしまうと私の手元からは消えてしまうんですよね」と言う亀田さんは少し切ない顔。不思議で奥深い鉱物の魅力を、ぜひ実際にご覧になってください。




Formation
— Process and Form —


亀田和人/KAZUTO KAMEDA 
1981年宮崎県出身 幼少期を宮崎で過ごし、長崎県の大学に進学。証券会社就職を機に上京するも、転勤で広島に赴任。広島滞在中にファンド会社、保険代理店、不動産業での勤務経験を重ねる。趣味として楽しんでいた鉱物蒐集に本腰を入れるようになり、2019年オンラインショップ「peanuts minerals」を開業。現在東京・骨董通りにて「AP Fine Mineral Art Gallery」も展開する。



text by mayuko yamaguchi
photo by yumiko miyahama



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