原石の声を聞きながら磨く。
甲府に受け継がれる「手磨り」の技術

2026年6月26日(金)〜7月5日(日)まで、MIN GALLERYでは、「Formation(形成)」をテーマに、5人の作家と2人のコレクターによる企画展を開催します。
本展では、石や金属をモチーフに作品を作り出す作家、土の表情や機微を丹念に撮影し続けるフォトグラファー、希少なファインミネラル(鉱物)や化石の蒐集家が、自然の産物から形成されゆくものの魅力とパワーを、それぞれの感性と手法で伝えます。
今回ご紹介するのは、山梨・甲府を拠点に活動する宝石研磨士、大城かん奈さん。
全国でも数少ない「手磨り」の技術を継承する研磨士として活動する大城さんは、治具を使わず手の感覚だけで宝石を磨き上げることで知られています。石の個性を見極めながら、一つひとつ異なる表情を引き出していくその仕事は、工業的な加工とは異なる、自然との対話にも似た営みです。
映画制作から宝石の世界へ

現在は宝石研磨士として活動する大城さんですが、もともとは映画制作の現場で小道具製作に携わっていました。
転機となったのは、仕事を通じて出会ったジュエリーでした。「人が身に着けることで完成する」というジュエリーの在り方に強く惹かれた大城さんは、ジュエリー産業が根付く山梨県甲府市へ移住。全国唯一の公立ジュエリー専門教育機関である山梨県立宝石美術専門学校で学び始めます。
しかしジュエリーを学び始めた当初から宝石研磨を志していたわけではありませんでした。大城さん自身も、「『宝石研磨=石を定型サイズに揃えて、キラキラしたカットにするのがセオリーの、すでに完成しきった世界』なのだろうと思い込んでいました。」と当時を振り返ります。
そんな考えを大きく変えたのが、現在所属するシミズ貴石と、師である清水幸雄氏との出会いでした。治具(角度などを決める器具)を使わず、手の感覚のみで宝石を磨き上げる「手磨り」。その自由度の高い表現に触れたことで、宝石研磨はまだ見ぬ可能性を秘めた創造的な世界であることを知ったといいます。
師である清水氏は、世界で唯一「桔梗カット」を生み出せる研磨士として知られ、長年にわたり手磨り技術の継承にも尽力してきました。その仕事を間近で見ながら学ぶことは、大城さんにとって宝石との向き合い方そのものを問い直す経験でもありました。
石が持つかたちを導き出す

大城さんが取り組む手磨りは、石全体を手の中で感じながら研磨を進めていく技法です。
とりわけランダムカットと呼ばれる表現では、石の状態を見ながら大胆な面を加えたり、異なる角度の細かなファセットを重ねたりすることで、独特のリズムを持つ一点もののルースが生まれます。
その制作は感覚だけに頼るものではありません。まず石をじっと見つめ、その石が持つ魅力をどのように見せるべきかを考える。形の骨格が見えてきたところで、ようやく手を動かし始めるといいます。
そのファセットが生み出したリズムやバランスを起点にルース全体の表情を組み立てていくことで、自身の想像を超えるような、生き生きとした仕上がりへと導かれることも少なくないそうです。

「たまに自分の意図しないところで偶然良いファセットが生まれる瞬間があるのですが、それは手磨りならではの醍醐味として絶対に見逃さないようにしています」(大城さん)
研磨の途中で現れる偶然の美しさを受け入れながら作品へと発展させていく。その柔軟な姿勢こそが、大城さんの作品に独特の生命感を与えているのかもしれません。
また、日々触れている原石そのものも重要なインスピレーションの源です。自然が長い時間をかけて育んだ原石の輪郭や成長の痕跡。その伸びやかで有機的な美しさを、最小限の介入によって表現することが現在の理想だと語ります。
完成された形を与えるのではなく、石がもともと内包している魅力を見つけ出し、その声に耳を澄ませること。それが大城さんの研磨の根底にある考え方です。
自然がつくり出したものに耳を澄ませる

シミズ貴石での仕事を通じて多様な研磨技術を学びながら、個人名義「canna oshiro」としても作品発表を続ける大城さん。そのカットはファンの間で「カンナカット」としても親しまれています。
日々の仕事ではさまざまな石と向き合い、その経験が新たな発想の種となります。休日や終業後に行う個人制作では、そうした気づきをもとに、サイズや用途にとらわれない自由な表現を探求しています。仕事と制作、それぞれの時間を往復するなかで生まれた作品には、石そのものへの深いまなざしが息づいています。
Formation展では、そうした探求の中から生まれた作品をご紹介します。

Formation展」で初披露する新作たち。
自然がつくり出した原石の魅力と、人の手による最小限の介入。その境界に立ちながら生まれる大城かん奈の仕事は、「形成」というテーマを考える上でも示唆に富んでいます。石が本来持つ美しさに静かに耳を澄ませながら生まれる作品を、ぜひ会場でご覧ください。
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Formation — Process and Form —
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大城かん奈 / CANNA OSHIRO
静岡県出身。山梨県立宝石美術専門学校卒業。シミズ貴石に所属しながら、宝石研磨士として活動。治具を用いず手の感覚のみで宝石を磨き上げる「手磨り」の技術を継承し、個人名義「canna oshiro」としても作品を発表している。原石の個性や自然が生み出した造形に着目し、石本来の魅力を引き出す独自の研磨表現を追求している。
text by MIN GALLERY
photo by yumiko miyahama